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映画『グリーンブック』@OSシネマズ神戸ハーバーランド [映画]

映画『グリーンブック』@OSシネマズ神戸ハーバーランド
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数日前大学の先輩I沢氏が観に行って、良かったという記事をFBで見たので行ってみることにした。黒人の天才ピアニスト「ドクター・シャーリー」にひょんなことからツアーの運転手として雇われたイタリア系アメリカ人「トニー・リップ(本名トニー・バレロンガ)」が、まだ黒人差別の色濃く残る南部諸州へのコンサート・ツアーに出かけた8週間の物語だという。二人は実在の人物であったというが、寡聞にして知らなかった。

舞台は1962年のアメリカ。あの「ワシントン大行進」はその頃だったかなと調べてみると、1963年だった。キング牧師が "I Have a Dream" という有名な演説をし、PP&Mやディラン,ジョーン・バエズなどが20万人といわれる聴衆の前で歌った集会である。
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そういった公民権運動が盛り上がるきっかけの一つになったエピソードといえるかもしれない。当時司法長官であった、ロバート・ケネディが(電話ではあるが)登場するのも、生々しい感じを伝えている。

さて物語であるが、ニューヨークの高級クラブで用心棒を務めていたトニー・リップは、店が改装のため閉店するので職を失う。粗野だが腕っぷしと口からでまかせ(リップ)で世を渡っているトニーは、自らもイタリア系として差別を受けていながら、黒人に対しては差別主義者であるといってよい人物である。それは妻のドロレスが黒人の修理業者に出した飲み物のコップをそのまま捨ててしまうところにも表れている。そんな彼がカーネギーホールの上階に住む天才ピアニストのドクター・シャーリーから、8週間の南部ツアーの同伴運転手として週給$125でスカウトされる。断るかと思いきや、結局受けることに…。
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ドクター・シャーリーは2歳で母親からピアノを習い始め、9歳でレニングラード音楽院に入学し、クラシックを学ぶ。ドクターと呼ばれるのは、彼が音楽、心理学、典礼芸術の3つの博士号を持っているからだという。無学で粗野なイタリア野郎と教養溢れる黒人ピアニストの珍道中は、はじめから口喧嘩やトラブル続きだったが、シャーリーの天才的なピアノプレイや南部の社会でのひどい差別に遭遇する中で、二人の中には次第に奇妙な友情のようなものが芽生えてくる…。
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本作のタイトル「グリーンブック」は、1936年から1966年まで刊行されていた黒人向けの旅行ガイドブックを指す。南北戦争が終わった後でも、南部諸州では黒人や有色人種への差別が残存しており、ジム・クロウ法(1876年~1964年)によって、黒人が利用できないホテルやレストランなど(トイレや水のみ場まで)が定められていた。1950年代になって、有名な「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」などの反人種差別運動が起こるが、そういった差別は解消されずにいた。映画の中でも、ミュージシャンとしては歓待され、敬意を持って遇されるのに、トイレは外の汚いものを使うことを強いられる、などといった奇妙で理不尽な扱いを受けていたのだった。
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シャーリーも、はじめはそういう不当な扱いを甘んじて受け入れ、言わば「許し、与える」ことで、全ての人々に理解される道を選んでいるように見えたが、トニーの無鉄砲な義憤に接していくうちに、少しずつ変化していく内面のドラマを、マハーシャラ・アリが実に見事に演じていた。レニングラード音楽院で学び、高度な教養を身につけた彼だが、黒人がクラシックを弾くことを拒否され、ポピュラーやジャズを取り入れた音楽をやらねばならない。音楽では賞賛されながら、他の部分では白人の差別を受ける。仲間であるはずの黒人達からも自分達とは違う、と奇異の目で見られる。周囲の全てから、<異種>と見られてしまうことの孤独感はいかばかりだったろう。黒人のホンキートンク・バーにトニーと入って、地元のバンドと実に楽しそうに弾いている姿に、そういう彼の孤独が裏返しに表現されているように思った。

長くなってしまうのでこのあたりで筆を置くが、非常に重いテーマでありながら、登場人物のやり取りの中に、ウィットやちょっとした「落ち」をちりばめて、最初から最後まで楽しく、そして考えさせられながら観ることができた映画であった。もう10年以上も前に南部諸州を車で旅したことがあったが、その時の美しい自然がよみがえってきた。件の先輩は2箇所で感動の涙が出たそうだが、やはり最後の場面が涙腺を強く刺激したのだった。それは是非見て味わうとよいと思ったことだよ。ちなみに、脚本を書いたのはトニーの実の息子であるニック・バレロンガだそうで、やや父親を美化して書いているというような批判も少しあるようだが、私にはそんな些細なことはどうでもいいように思われたのだった(笑)。

最後に、彼の実作品はほとんど残っていないそうだが、youtubeにこの演奏があったので引用しておく。
Don Shirley - The Very Best of Don Shirley - The Piano Jazz Legend
https://www.youtube.com/watch?v=rGFSuKVI8Dc

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