Brown Mountain Lights[私の好きな20世紀の唄たち] vol.76 [20世紀の歌Ⅱ]
Brown Mountain Lights(ブラウン山の不思議な光)
Written by Scott Wiseman(62)
Lulu Belle and Scotty
この歌を初めて聴いたのは大学一年の頃で、当時のバンド仲間が持っていたブルーグラス・バンド"The Country Gentlemen" のアルバムであった。たぶん日本盤のベストアルバムだったと思うが、初出は "Bringing Mary Home(66)" 。コード進行が変わっていて、ちょっとエキゾチックな雰囲気の曲だなと思ったことを覚えている。演奏することがなかったのは、一年生バンドには難しいと思ったからかも知れない。
余談になるが、当時貧しい下宿生だった私は、友人とアンプ・スピーカー・レコードプレイヤー・カセットデッキなどを一人ずつ分けて買って、私の下宿の部屋に置いて聴いていた。自分でレコードを買うことはできないので、先輩や友人から借りてはカセットに録音していたのだ。今となっては懐かしい思い出であるが。
その後この歌のことは忘れていたが、90年代になってTony Rice が "Plays And Sings Bluegrass(93)" で取り上げているのを聴いて、いつか演奏したいものだと思いながらまた月日が流れて行った。2004年にアメリカ南部を旅した時、ブルーリッジ山脈に沿って走る "Blueridge Parkway" をドライブしたのだが、ノース・キャロライナのあたりで "Brown Mountain Lights" という怪奇現象があるという看板を見つけて、この曲と関係があるのではないかと思い至ったのだった(アメリカ南部の旅 vol.3 @ Blueridge Parkway)。
旅行記を当ブログに書いたのは2016年で、そのうちこの曲についても「20世紀の歌」に書こうと心の隅で思っていたのだが、延び延びになっていたのだった(どんだけー!)。
The Brown Mountain。
今から100年も前にノース・キャロライナのブラウン山の付近で何度も見られたというこの不思議な「光」の正体が何であるかはよく分からない。宇宙から来たものと考えれば今でいう火球か彗星の類かも知れないし、UFOだと言う人もいるだろう。また、地上で発生したものであるなら、メタンガスなどが発生してそれが発火したものだろうか。いずれにしても当時の人々にとって不思議な現象であっただろうことは想像に難くない。
この歌を書いたカントリー・ミュージシャンのScott Wisemanの解釈も、当時の様々な受け止め方の一つだったのだろう。「光」を墓場からよみがえった幽霊=GHOSTが手に持ったランタンの光だというのは興味深い解釈ではある。アメリカはヨーロッパ諸国(日本もか)に比べて歴史が浅いので、そのコンプレックスから超常現象に惹かれるのだという説を以前聞いたことがあるがどうだろう。そういえばC.G.の上記のアルバムにある"Bringing Mary Home"も少女の幽霊の話だった。望郷の歌や殺人の歌に並べて、ゴーストの歌の系列もあってもいいと思われる(知らんけど)。
もう一つ興味深いのは、歌の主人公の幽霊が南部の農園に雇われていた黒人奴隷だったということである。農園主と老奴隷は家族以上の絆で結ばれていて、死んでもなお失踪した主人を探して歩き回っているというストーリーは、奴隷制廃止論に対するアンチテーゼとも受け取れる。そういえば前に取り上げたザ・バンドの"Old Dixie Down"も南北戦争を南部の視点から描いていた歌だった。アメリカ南部の社会で南北戦争以前の世に対する郷愁のようなものが未だに根強く残っているのかなあとも思わせる。そしてそれは、現代アメリカで政権交代前のトランプ元大統領を支持する人々が少なくないことと無関係ではないのかも知れない。だとしたら、今日のアメリカ社会の「分断」は相当根深いものだということになるのだろう。
まあ日本にも「人魂(ひとだま)」という言葉があるから、アメリカ特有ということでもないのかも知れない。歌にはその時代時代の人々の気持=願いが反映されているものだから、そういったことを受け止めながらこの歌も聴き、また歌っていくべきなのかなと思ったことだよ。
youtubeでは他のミュージシャンのカバーもあるが、以下の4つを紹介しておく。
Lulu Belle and Scotty - The Brown Mountain Light (c.1962).
https://www.youtube.com/watch?v=MlbQ1zsE2nQ
Brown Mountain Light Country Gentlemen
https://www.youtube.com/watch?v=b-bSdnbw5eg
Kingston Trio-Brown Mountain Light
https://www.youtube.com/watch?v=MRjtpyK784o
Tony Rice and The Brown Mountain Lights
https://www.youtube.com/watch?v=_5G_dWxlTQE
ブラウン山の不思議な光(大意。原詩は検索してみて下さい。)
古い幌馬車で旅をしていたころ
一夜を過ごすために低地で露営していた
谷の縁の向こうに月が鈍く輝いている中で
私たちはブラウンマウンテンの光が現れるのを待っていた
**
山の上高く谷の底深く
それは天使の輪のように光り輝いていた
そして霧が出て消えていく間に光を失っていった
遥か空の向こうに
来る夜も来る夜も夜が明けるまで
一人の孤独な老奴隷が墓からよみがえってきて
探し続けている
ずっといなくなったままの主人のことを…
ずっと昔一人の農園主が
この広い山の中に一人で狩りに来た
農園主が行方不明になったのはその時だったそうだ
そして彼は二度と帰ってこなかった
農園主が信頼していたこの年老いた奴隷は
ランタンを手に昼も夜も主を探し続けたが徒労に終わった
今ではその老奴隷も死んでしまったが
彼の魂はこの世にとどまり
ランタンは今でも光を発し続けている
Written by Scott Wiseman(62)
Lulu Belle and Scotty
この歌を初めて聴いたのは大学一年の頃で、当時のバンド仲間が持っていたブルーグラス・バンド"The Country Gentlemen" のアルバムであった。たぶん日本盤のベストアルバムだったと思うが、初出は "Bringing Mary Home(66)" 。コード進行が変わっていて、ちょっとエキゾチックな雰囲気の曲だなと思ったことを覚えている。演奏することがなかったのは、一年生バンドには難しいと思ったからかも知れない。
余談になるが、当時貧しい下宿生だった私は、友人とアンプ・スピーカー・レコードプレイヤー・カセットデッキなどを一人ずつ分けて買って、私の下宿の部屋に置いて聴いていた。自分でレコードを買うことはできないので、先輩や友人から借りてはカセットに録音していたのだ。今となっては懐かしい思い出であるが。
その後この歌のことは忘れていたが、90年代になってTony Rice が "Plays And Sings Bluegrass(93)" で取り上げているのを聴いて、いつか演奏したいものだと思いながらまた月日が流れて行った。2004年にアメリカ南部を旅した時、ブルーリッジ山脈に沿って走る "Blueridge Parkway" をドライブしたのだが、ノース・キャロライナのあたりで "Brown Mountain Lights" という怪奇現象があるという看板を見つけて、この曲と関係があるのではないかと思い至ったのだった(アメリカ南部の旅 vol.3 @ Blueridge Parkway)。
旅行記を当ブログに書いたのは2016年で、そのうちこの曲についても「20世紀の歌」に書こうと心の隅で思っていたのだが、延び延びになっていたのだった(どんだけー!)。
The Brown Mountain。
今から100年も前にノース・キャロライナのブラウン山の付近で何度も見られたというこの不思議な「光」の正体が何であるかはよく分からない。宇宙から来たものと考えれば今でいう火球か彗星の類かも知れないし、UFOだと言う人もいるだろう。また、地上で発生したものであるなら、メタンガスなどが発生してそれが発火したものだろうか。いずれにしても当時の人々にとって不思議な現象であっただろうことは想像に難くない。
この歌を書いたカントリー・ミュージシャンのScott Wisemanの解釈も、当時の様々な受け止め方の一つだったのだろう。「光」を墓場からよみがえった幽霊=GHOSTが手に持ったランタンの光だというのは興味深い解釈ではある。アメリカはヨーロッパ諸国(日本もか)に比べて歴史が浅いので、そのコンプレックスから超常現象に惹かれるのだという説を以前聞いたことがあるがどうだろう。そういえばC.G.の上記のアルバムにある"Bringing Mary Home"も少女の幽霊の話だった。望郷の歌や殺人の歌に並べて、ゴーストの歌の系列もあってもいいと思われる(知らんけど)。
もう一つ興味深いのは、歌の主人公の幽霊が南部の農園に雇われていた黒人奴隷だったということである。農園主と老奴隷は家族以上の絆で結ばれていて、死んでもなお失踪した主人を探して歩き回っているというストーリーは、奴隷制廃止論に対するアンチテーゼとも受け取れる。そういえば前に取り上げたザ・バンドの"Old Dixie Down"も南北戦争を南部の視点から描いていた歌だった。アメリカ南部の社会で南北戦争以前の世に対する郷愁のようなものが未だに根強く残っているのかなあとも思わせる。そしてそれは、現代アメリカで政権交代前のトランプ元大統領を支持する人々が少なくないことと無関係ではないのかも知れない。だとしたら、今日のアメリカ社会の「分断」は相当根深いものだということになるのだろう。
まあ日本にも「人魂(ひとだま)」という言葉があるから、アメリカ特有ということでもないのかも知れない。歌にはその時代時代の人々の気持=願いが反映されているものだから、そういったことを受け止めながらこの歌も聴き、また歌っていくべきなのかなと思ったことだよ。
youtubeでは他のミュージシャンのカバーもあるが、以下の4つを紹介しておく。
Lulu Belle and Scotty - The Brown Mountain Light (c.1962).
https://www.youtube.com/watch?v=MlbQ1zsE2nQ
Brown Mountain Light Country Gentlemen
https://www.youtube.com/watch?v=b-bSdnbw5eg
Kingston Trio-Brown Mountain Light
https://www.youtube.com/watch?v=MRjtpyK784o
Tony Rice and The Brown Mountain Lights
https://www.youtube.com/watch?v=_5G_dWxlTQE
ブラウン山の不思議な光(大意。原詩は検索してみて下さい。)
古い幌馬車で旅をしていたころ
一夜を過ごすために低地で露営していた
谷の縁の向こうに月が鈍く輝いている中で
私たちはブラウンマウンテンの光が現れるのを待っていた
**
山の上高く谷の底深く
それは天使の輪のように光り輝いていた
そして霧が出て消えていく間に光を失っていった
遥か空の向こうに
来る夜も来る夜も夜が明けるまで
一人の孤独な老奴隷が墓からよみがえってきて
探し続けている
ずっといなくなったままの主人のことを…
ずっと昔一人の農園主が
この広い山の中に一人で狩りに来た
農園主が行方不明になったのはその時だったそうだ
そして彼は二度と帰ってこなかった
農園主が信頼していたこの年老いた奴隷は
ランタンを手に昼も夜も主を探し続けたが徒労に終わった
今ではその老奴隷も死んでしまったが
彼の魂はこの世にとどまり
ランタンは今でも光を発し続けている
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