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Ol' '55 [私の好きな20世紀の唄たち]vol.58 [20世紀の歌Ⅱ]

Ol' '55(55年型のビュイック・ロードマスター)
written by Tom Waits
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私がこの歌を初めて聴いたのはたぶん The Eagles の "On the Border"('74)だったろうと思うが、割と流して聴いていたのでそれほど印象は強くなかったように記憶している。むしろイギリスのフォークロックグループ Fairport Convention からソロになったIan Matthews の "Some Days You Eat The Bear And Some Days The Bear Eats You" ('74)(長い題名だが、名盤だと自分的には思っている)の方がよく聴いたので印象が強い。何しろ一曲目だったからCDをかけると真っ先に耳に飛び込んでくるものね(笑)。
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いずれにしても、いい曲だとは思いながら自分で歌おうとは思わなかったからか、トム・ウェイツというクレジットは認めていてもあまり気には留めていなかった(トムのものは "Closing Time"['73]所収)。"Wreck Of Old 97" という鉄道事故を歌った歌があったので、そんなものかなと思っていたがとんだ間違いであった(笑)。Ol' '55というのは55年型のビュイック・ロードマスターという車で、当時の彼の愛車だったようだ。アメリカンミュージックの系譜的に見ると、500 miles などの Train Song の系列になるのかなとも思われる。鉄道が衰退した後は、"Truck Drivin' Man"などの自動車に取って代わり、やがて "Silver Wings " などの飛行機が現れるという具合だろうか。
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トムは高校を中退してピザ屋の店員として働きながら作詞作曲を始めたようだが、そんな彼の愛車は125ドル程度で買えるこれらの中古車だった。お金がなかったということもあっただろうが、彼は二十年近く前のこれらの車を愛した。まるで自分の分身ででもあるかのように。最新型の無機質な車と違ってどこか人間味のある「手ざわり」のようなものに愛着を感じるというのは何か分かるような気がする。前にイーグルスの「ならず者」について書いた時に、70年代は「個の時代・あるいは内向の時代」だと言ったが、極めて個人的な「手ざわり」のようなものから世界とのつながりを確かめたいという点で、「ならず者」とも共通する感性があるような気がする。

歌に出てくるフリーウェイも今のインターステートよりは「ルート66」のような少し古いけど手ざわりの感じられる道の方が相応しい。この歌をしっかり歌えるようにして、あの「ルート66」をのんびり走りながら口ずさんでみたいと思ったことだ。長い間心の片隅にこびりついていた歌だったが、最近FB上で話題になっていたので、取り上げてみようと思い立った。おかげでたまっていた心の澱が少し取り払われたような気がした。

youtubeは一番好きなイアンのものから
Ian Matthews - Ol 55
https://www.youtube.com/watch?v=iQKia76QGYU
Tom Waits Ol '55
https://www.youtube.com/watch?v=PejBkU4-1fk
The Eagles - Ol' 55
https://www.youtube.com/watch?v=8g8VX4QER1g

Ol' '55 (大意。原詩は検索してみてください)

時間があっという間に過ぎて
俺は急いで愛車 ol' 55 に乗り込んだ
車が走り出す時とても神聖な気分になり
生きているという実感が湧いてくる

**
今まさに日が昇ろうとして
俺は幸運の女神とともに車を走らせている
フリーウェイには車やトラックが集まり
星たちは次第に光を失っていく
俺はパレードの先頭を走りながら
もう少しこうしていたいと願う
この感情の高まりは俺にしか分からない

ふと気がつくとすっかり夜が明けてしまっていて
もう家に帰らなければならない
周りの車は俺を追い越し、トラックはパッシングしてくる
俺はお前のこの場所から家に向かって走る

車やトラックのひしめくフリーウェイを…
幸運の女神とともに…


Some Days You Eat The Bear - Factory Sample


Closing Time


On the Border