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映画『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』@OSシネマズ神戸ハーバーランド [映画]

映画『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』@OSシネマズ神戸ハーバーランド
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少し前から派手に予告していたので、封切直後に観に行った。空海の名が冠されていたので、唐に渡海した空海が現地でどのような修行をしたり、見聞を広めたりしたのか、ということが描かれているのかなと思っていたが、その予想は大きく裏切られた。空海と楊貴妃が関わりを持って描かれるということを以って、歴史空想ファンタジーと当たりをつけるべきだったのかもしれない。もちろん初めからエンターテインメントとして観る分には、映像的にも素晴らしい作品であったのだが。「空海」を前面に出した方が日本の観客には受けがいいという目論見だったんだろうな。
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こういう誤解をする方も多かろうと思うのだが、原因の一つは邦題のつけ方にあったのではないか。原題は「妖猫傳(英題:Legend of the Demon Cat)」で、どこにも空海の名はない。原題にあるようにこの映画は人語が操れる「妖猫(Demon Cat)」が真の主役であったのだ。空海は友人の詩人・白楽天(白居易)と共に、猫の起こす不思議やその言葉から、50年前の「安史の乱」と、玄宗皇帝の妃にして絶世の美女「楊貴妃」の死の真相に迫るというもので、二人はむしろ事件を解決する探偵役として登場している。
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原作は『陰陽師』の作者でもある夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』であり、こちらには「空海」の名が出ている。まだ読んでいないのでよく分からないが、小説の方では空海が渡唐してからの体験がもっと詳しく書かれているのだろうと思う。長い小説を二時間あまりの映画に纏めることの難しさを感じるが、小説では空海の相棒は橘逸勢となっており、映画ではより日中の大御所?(阿倍仲麻呂など)を集めて耳目を引こうとしたのだろう。今のところ効を奏したとはいえないようだが。
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中国映画の巨匠チェン・カイコー監督のこだわりもあったといわれる、当時の世界最大の都・長安の街を模したロケセットは素晴らしかった。それだけでもこの映画を観る価値はあると思われる。主人公の「妖猫」の動きは実写とCGの組み合わせで素晴らしい効果をあげていたし、楊貴妃の誕生日を祝う「極楽の宴」では唐王朝の宮廷の絢爛豪華さが余すことなく描かれていた。史実を利用した壮大なスペクタクルと思って観れば素晴らしい映画であると思ったことだよ。
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最後に白居易の『長恨歌』の現代語訳を引用しておく。読んでおいた方が理解は深まると思うが、無理に読まなくても映画は楽しめる(笑)。

長恨歌 白居易 (漢文塾HPより転載)

漢の皇帝は女色を重視し絶世の美女を望んでいた
天下統治の間の長年にわたり求めていたが得られなかった
楊家にようやく一人前になる娘がいた 
深窓の令嬢として育てられ、誰にも知られていない
生まれつきの美しさは埋もれることはなく
ある日選ばれて、王のそばに上がった
視線をめぐらせて微笑めば、そのあでやかさは限りない
宮中の奥御殿にいる女官たちは色あせて見えた

(彼女は)春まだ寒い頃、華清池の温泉を賜った
温泉の水は滑らかで、きめ細かな白い肌を洗う
侍女が助け起こすと、なまめかしく力がない
こうして初めて皇帝の寵愛を受けたのである
雲のように柔らかな髪、花のような顔、歩くと揺れる黄金や珠玉で作られたかんざし
芙蓉の花を縫い込めた寝台の帳は暖かく、春の宵を過ごす
春の宵は短いことに悩み、日が高くなってから起き上がる
このときから王は早朝の政務をやめてしまった

(彼女は)皇帝の心にかない、宴では傍らにはべり暇がない
春には春の遊びに従い、夜は夜で皇帝のお側を独り占めする
後宮には三千人の美女がいるが
三千人分の寵愛を一身に受けている
黄金の御殿で化粧をすまし、なまめかしく夜をともにする
玉楼での宴がやむと、春のような気分に酔う
妃の姉妹兄弟はみな諸侯となり
うらやましくも、一門は美しく輝く

ついには天下の親たちの心も
男児より女児の誕生を喜ぶようになった
驪山の華清宮は、雲に隠れるほど高く
この世のものとも思えぬ美しい音楽が、風に飄(ひるがえ)りあちこちから聞こえる
のどやかな調べ、緩やかな舞姿 楽器の音色も美しく
皇帝は終日見ても飽きることがないそのときに
漁陽の進軍太鼓が地を揺るがして迫り
霓裳羽衣の曲で楽しむ日々を驚かす

宮殿の門には煙と粉塵が立ち上り
兵車や兵馬の大軍は西南を目指す
カワセミの羽を飾った皇帝の御旗は、ゆらゆらと進んでは止まる
都の門を出て西に百余里
軍隊は進まず、どうにもできない
美しい眉の美女は、馬の前で命を失った
螺鈿細工のかんざしは地面に落ちたままで、拾い上げる人はいない
カワセミの羽の髪飾りも、孔雀の形をした黄金のかんざしも、地に落ちたまま

君王は顔を覆うばかりで、救けることもできない
振り返っては、血の涙を流した
土ぼこりが舞い、風は物寂しく吹きつける
雲がかかるほどの高い架け橋は、うねうねと曲がりくねり、剣閣山を登っていく
峨眉山のふもとは、道行く人も少ない
皇帝の所在を示す旌旗は輝きを失い、日の光も弱々しい
蜀江の水は深い緑色で満ち、蜀の山は青々と茂るも
皇帝は朝も日暮れも(彼女を)思い続ける

仮の宮殿で月を見れば心が痛み
雨の夜に鈴の音を聞けば断腸の思い
天下の情勢が大きく変わり、皇帝の御車は都へと向かう
ここに到って、心を痛め去ることができない
馬嵬の土手の下、泥の中に
玉のような美しい顔を見ることはない (そこは彼女が)空しく死んだところ
君臣互いに見合い、旅の衣を涙で湿らす
東に都の門を望みながら、馬に任せて帰っていく


沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三 (角川文庫)


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