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小説『わたしを離さないで』雑感 [読書]

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小説『わたしを離さないで』原題:" Never Let Me Go " )の作者カズオ・イシグロは両親とも日本人だが、本人は5歳のとき父親の仕事の関係でイギリスに移り住み、そのまま在住し、英国国籍もとっているから、ほとんど日系イギリス人といっていいのだろう。彼の短編集は以前読んだことがある。この小説は日本語訳が出てすぐのころ、「読んだら図書館にでも寄贈して」といっていただいたのを、ずっと読まずにいたもので、今回日本でドラマ化されるというので急ぎ読むことにしたw

2010年にイギリスで映画化されたらしい。これもまだ観ていないので、また観なくちゃね。読んだから言うのではないが、この小説に関しては原作を先に読んだほうがいいような気がする。かくいうこの記事も後半はネタばれにならざるを得ないので、真ん中から後は読後に読んで欲しい気もするが(笑)。
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物語は30代と思われる主人公キャシーが「介護人」という仕事を10年あまりやっていて、「そろそろこの仕事もやめ時かな」とつぶやく場面から始まる。「介護人」って看護師さんのようなもの?、そんなに早く引退するのはなぜ?などと疑問をはさみながら読んでいくと、話はいつしか回想場面になり、彼女が幼少時から入っていた施設「ヘールシャム」での生活ぶりが語られる。どういう施設なのか、教官にあたる「保護官」とか「展覧会」に出展するための絵画や詩などを作る創作活動が盛んだとか、「提供者」という言葉が語られるが、その内容は半分ベールに覆われたまま物語は進み、施設での10年ぐらいの期間の中で次第に明らかにされていく、という展開である。

そのあたりがややもどかしいのと、イギリス文学独特の言い回し(翻訳ではそれが更に強調されているような気がする)もあってやや冗長な感じもすることが多かった。少年・少女の会話にもこんなウィットを重んじたり、韜晦じみた言い回しをするのかなあ、と日本の小説とは異なる部分に慣れるのに時間がかかった。でもそれらの表現によるデリケートな心のやりとりや、やたらとボディタッチでコミュニケーションをとるところなど、文化の違いも感じられて興味深かった。
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文中に出てくる" Never Let Me Go " という歌は実際にあって下にyoutubeのものをあげておく。歌詞の中の "Baby " を少女キャシーが「恋人」でなく「赤ちゃん」と勘違いするところが、物語展開のミソなのだが、最後の場面にもオーバーラップしていく気がする。

Judy Bridgewater - Never Let Me Go
https://www.youtube.com/watch?v=4UX6tzE7P44

<ここからネタばれ>
この小説はクローン人間を題材にした科学(医学)SF小説で、「アルジャーノン」にある意味似ているところがあった。ここでのクローン人間は普通の人間に「臓器提供」をするためだけに造られた存在で、何度かの「提供」を終えると「使命」が終わった=死を迎えるということらしい(はっきりとは書いていないが)。映画ではもっとはっきり描写しているらしいんだけど。また、彼らはセックスしても子供はできないように造られているらしいので、カップルになったり行きずりのセックスはするが、その先に未来はない。

いくつかある彼らを収容する施設の中で、「ヘールシャム」は上に書いたように、「人間らしい」感性や教養を身につけさせようとしていたようだが、金銭的な理由や政治的な理由でやがて閉鎖になる運命になるという流れで、現実の世界に収斂されていく。彼らが「未来のない生き方」を強いられる中でなおかつ「人間らしい生き方」を希求する様は悲しくもいじらしいのだが、そこから逆に「人間とは」「人間らしさとは」が問いかけられているのかな、とも思う。彼らがクローンとして直面している問題は、そのまま現代社会における人間存在が直面している問題だ、と作者は言いたいのかもしれない。あるいは、科学が神の領域にまで踏み込んでいいのか、という警告も含まれているのかな。 " Never Let Me Go " とは私たち人類をそんなところまで行かせないで、という意味にもとれるかもしれない。

日本のドラマがどういう解釈をしているのかこれから観てみようと思ったことだ(第一話は録画してまだ観ていないのだw)。あ、蜷川幸雄演出の舞台も14年にあったそうだが、youtubeとかで観れるのかな?

※画像は映画のものです。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)


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