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小説『ゴールデンスランバー』雑感 [読書]

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伊坂幸太郎の作品は図書館にいた頃お客さんのリクエストで『陽気なギャングが地球を回す』や『重力ピエロ』など購入していた。2008年 本屋大賞をとった『ゴールデンスランバー』も当然購入していたが、いずれも読まずじまいで現在に至っていたww

ちなみにあまり多読ではない私だが、本屋大賞受賞作品だけはたいがい読んでいた。本好きな一般読者の代表である本屋さんが選ぶものにはそれなりの何かがある、と思うからだ。そういう意味ではかの『火花』の作者が芥川賞をとったとき、某キャスターが「芥川賞と本屋大賞の区別がなくなった云々」のコメントを発したのには少し驚いた。直木賞だったらそうは言わなかったのかねえ。

本作は作品のなかでも言及されているように、63年にテキサス州ダラスで暗殺されたジョン・F・ケネディと暗殺犯とされたオズワルドのことが下敷きになっているのかな、と思われる。舞台は首相公選制が存在する現代という架空の設定であり、若くして首相になった金田貞義の仙台での凱旋パレードのさなか、ラジコンヘリを使って爆殺されるという2015年を先取りするような事件で始まる。

現代日本の政治状況について切り込むような内容かな、と思って読むと、そこはエンターテインメント、あまり深く立ち入ることはしないが、犯人に仕立て上げられる主人公青柳雅春やその関係者たちが、総合監視システム「セキュリティポッド」によって追跡されるという、「監視社会」のありようは、「マイナンバー制」が我々の社会にもたらすものを暗示していて興味深い。

主人公は自分を理不尽に陥れようとする真犯人側(巨大な権力の闇?)に対して強く憤るのだが、結局無力な一個人に出来ることは「逃げて逃げて逃げまくる」ということ以外にはない…。彼を支えるものは「人間の最大の武器は、信頼と習慣だ。」という旧友森田森吾の言葉だけであった…。
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話の序盤からあらゆるところに伏線を張り巡らし、最後にそれらが一つに収斂する、というのが作者の小説の特徴らしく、この小説でも十分に発揮されているが、この作品では最後に全てを明らかにするのではなく、不分明な部分を敢えて残す、というスタイルに変わってきているらしい。それが逆に小説に深みを与えていると言えなくもない。まあ、国家的な権力構造や裏社会まで明らかにするのも、フィクションとはいえ難しいのだろうけどw
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題名の「ゴールデンスランバー」はビートルズの最後のアルバム「アビー・ロード」のB面にあるメドレー曲である。アルバムの中では目立たない、さらっと聞き流す感じで聞いていたが、ばらばらになったメンバーの切れ切れの演奏のピースをポールが独りでスタジオでつないでいたものだったと知った。ポールも「失われた絆」を再び紡いで一つにしたいと考えていたのかな、と思うと、ちょっと切なくなった(「20世紀の歌」の " LONG AND WINDING ROAD " も参照)。

なお、この作品は2010年に映画化されているらしく、キャストを見るとなかなか読んでいるときのイメージに近い人たちで興味深かったが、ショットガンをぶっ放す警官小鳩沢役は 永島敏行よりむしろ ピエール瀧に演じてもらいたかったな、と思ったことだよ。またレンタルでもして観てみようと思った。


ゴールデンスランバー (新潮文庫)


Abbey Road


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