SSブログ

小説「火花」雑感 [読書]

ha1.jpg
お笑いコンビ「ピース」の又吉さんの小説「火花」が芥川賞を受賞した、というので読んでみた。2月に『文學界』に掲載されてからずっと話題にはなっていたのだが、『文藝春秋』の九月特別号に受賞作が両方載るのでそれまで待ったのであったよww

これまで「ピース」の漫才はほとんど観たことがなく、せいぜい相方の綾部さんの「熟女好き」的な話題をネット上で散見しただけであった(そっちかいw )。その後TVのインタビューなどを見て、そのお笑いらしからぬ語り口や、芥川や太宰の愛読者であるということから興味を持った。というか「芥川・太宰が大好きなお笑い芸人って?」と違和感を感じたのが正直なところだ。
ha2.jpg
ところが実際読み始めてみると、抑制された文体で情景描写や登場人物の重層的な心理を丹念に描写しているのに驚いた。たとえばこんな一節だ。「(先輩芸人の純真さを)僕は憧憬と嫉妬と僅かな侮蔑が入り混じった感情で恐れながら愛するのである。」芥川をよく読んでいるのが分かるような気がした。

主人公徳永は売れない芸人で、熱海で偶然出会った先輩芸人神谷に心酔し、それぞれの芸術観(「笑い」とは、生き方とは等)を互いにぶつけ合いながら、芸人生活を送っていく。神谷は天才肌で直観的に演じるのが芸人だ、と客を含めた周囲に迎合しないので、上手くいかない。一方徳永は内省的で神谷を尊敬しながらも付いていけない自分にジレンマを感じているように描かれている。一応筆者に近いのが徳永なのだろうが、筆者の中の「理想」と「現実」を<ドラマ>にしているように思われる。

この小説を読んでから、ネットで彼らの漫才をいくつか観てみたが、他の多くの漫才と<笑い>の質が異なるような気がした。うまく言えないが、日常の中にある「違和感」とか「意外性」の中に<笑い>の要素を見出そうとしているかのような。それは彼らだけのことではないのかもしれないが、特にお笑い芸人としての優れた資質はあまり持ってないようにも思える(失礼!)又吉さんの云わば「内省的なギャグ」みたいなものかもしれないと思った。

彼は小さい頃からお笑い芸人になりたいと思っていたそうであるが、それは関西に住んでいてたまたま一番身近にあったからそう思ったのであって、小説や映画のような他の表現方法でも大成したのではないかと思われた。今後の作品がどうなるかも興味深いが、漫才における笑いの質がどうなるかも見てみたい、と強く思ったことだよ。

最後に、芥川の「或る阿呆の一生」に、架空線上の火花を見た作者が「彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかつた。が、この紫色の火花だけは、――凄すさまじい空中の火花だけは命と取り換へてもつかまへたかつた。」とあるが、又吉さんが捕まえたかったのもこの「火花」だったのかな?

※冒頭の写真は「熱海海上花火大会」のHPより転載させていただきました。


火花


nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0