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小説『火車』(宮部みゆき)雑感 [読書]

2011年にもテレビドラマ化されたらしい。
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宮部みゆきさんの作品は読んだことがなかったので、何か読もうと思って調べてみると、1992年の「火車」がお薦めランキングのトップに出たので、読んでみることにした。全一巻と手ごろな長さというのもあったかな。彼女の小説は長いものが多いのでww

題名の「火車」は仏教用語で「生前、悪事を犯した亡者をのせて地獄に運ぶとされる、火が燃えている車のこと。」と辞書にはあり、小説の扉の裏にも同じ意味のことが書き付けてある。作品のテーマが「カード破産」や「サラ金」に追い立てられて失踪したり自殺に追いこまれる、といった社会現象を扱っており、「火の車」「自転車操業」などのイメージを込めているのだろう。
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当時はバブルがはじけて、銀行が「貸し渋り」をし出して、多くの中小企業が倒産に追い込まれた時代でもあった。私の身近にもそういう例があったのをよく覚えている。バブルの頃は担保等がちゃんとしてなくても、どんどん融資してくれたのに、手のひらを返したように貸し渋り、切り捨てていく。メガバンクは国税で助けられるのに…、と一種の理不尽さも当時は感じた。

もちろんカードローン破産にしても不渡り倒産した企業も、当人たちにも非があるのだろうが、構造的にそうした悲劇を引き起こしてしまう部分があったことは否めない。その後の空白の20年の間にどれだけ改革されたのだろうか。

物語にはそんな「多重債務」に追い詰められた二人の女性が登場する。一人は追い詰められた結果弁護士に相談して「破産宣告」をし、何とか再生しようとする。もう一人はどこまでも「追い立てられる」ことに疲れ、「別の人間」なることで再生しようとする。それぞれの結果は…、というふうに展開していく。
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また、作者がキーワードの一つとして使っている語に「転轍機」というのがある。元々は鉄道用語で、レールごと機関車の向きを変えるポイントを指すものらしい。ちなみに「火車」の画像をネットで検索すると中国のものらしい(赤い)列車の画像がたくさん出てくるので、調べると中国語では汽車を指すという。「転轍器」でなく「転轍機」と表記すると、人生の方向を大きく転換する結節点というような意味を帯びてくる。

「幸せになりたいと思っただけなのに」キャッシングを重ねて、いつの間にか取り返しのつかない泥沼に入り込んでいく。普通の人の一見平凡な暮らしの奥に潜む「陥穽」=「転轍機」が作者の一番語りたかった部分かも知れない。

この小説は2008年に「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベスト第1位(20年間の)に選ばれたので、もはやミステリーの古典的名作といえるのかもしれない。他の作品も読んでみたいと思ったことだよ。


火車 (新潮文庫)


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