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映画『光』(河瀬直美監督)@109シネマズHAT神戸 [映画]

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河瀬直美監督の新作が上映されているというので観に行った。5月27日に関西で公開が始まったようだが、もう一日2回になっていた。カンヌのコンペティション部門にノミネートされたといっても、一般的ではないのかもしれないなあ。さすがに監督の地元の奈良では日に5回ぐらい上映しているが(笑)。

彼女の作品はこれまで二度観た。最初は奄美を舞台にした「2つ目の窓」。青春映画だったが、奄美に伝わる原始宗教を背景とした奄美の海山が美しく描かれていた。次に観たのがちょうど一年前、今回も出ている永瀬正敏を起用した、ハンセン病を扱った「あん」という映画だった。東村山市が舞台だったらしい(ハンセン病資料館があると今回改めて調べて知った)。一般の人々から隔離されて生きることを余儀なくされた患者達の背後に、全てを包み込むような深い森を感じた映画であった。


今回の『光』は天理の街が舞台のようで、自らの出身地奈良をこよなく愛しているらしい彼女の、ある意味では原点回帰の作品なのかな、とも思った。同じく奈良を舞台にした2007年の『殯の森』(もがり の もり)もDVDで観なくっちゃ、と思いながら観た。
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主人公の美佐子(水崎綾女)は、視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」の制作に従事している。作った音声ガイドを、実際視覚障がいを持っている人たちにモニターしてもらい、手直しして完成させているのだが、ある作品の音声ガイドを作っているとき、モニターさんから厳しい指摘を受けて悩む。目の不自由な人たちのために何から何まで解説してしまうと、却って説明過多になったり想像する余地を奪ってしまうことになる。また、ガイドを作る人の解釈が偏っていても、それを押し付けることになってしまう。つくづく難しい仕事だな、と思いながら観ていた。
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モニターさんの中にひときわ厳しい指摘をする男がいた。中森(永瀬正敏)という、かつては著名なカメラマンだったが、徐々に視力を失いつつある男だった。彼とのやり取りの中で、反発したり自信を失ったりしながら、いつしか惹かれていく…。
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「いちばん大切なもの」を失ったとき、その人に救い=光はあるのだろうか、あるとすればそれはどのような光だろうか、という問いかけがこの映画のテーマなのかな。カメラマンにとって視力を失うことは、自らの生命を断たれることに等しい。永瀬演じる中森は、いちばん大切なものを失いつつある人間の焦りや絶望・悲しみを実にリアルに演じているように思った。また美佐子は、誠実なクリエイターであるが、若さゆえの未熟さを様々な場面で露呈し悩みながら、周囲の人たちのアドバイス(批判)を真摯に受け止め、自らを変えていこうと葛藤する様を水崎綾女が実に魅力的に演じていた。視力を失った人が、ラジオドラマではなく敢えて映像作品を音声ガイド付きで観るとき、そこにはどのような作品世界が展開しているのだろうか。想像することも難しいように思われるが、それに挑み続ける美佐子の姿に、私たちはついに分かりあえないかもしれない<他者>を理解しようと日々もがいている自分たちの営為を重ねているのかもしれない。
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中森の写真集に載っていた夕日の見える場所に美佐子が連れて行ってもらう場面が美しかった。そしてそれは、彼女の年老いた母が、いなくなった夫を待ちながら見ている夕日にも、作中の映画の主人公(藤竜也)が最後に砂丘を登った先に見える光にもつながっていて、非常に暗示的なものを感じた。中森は美佐子と一緒に夕陽を眺めている時(感じている時)、彼が「いちばん大切」にしていたカメラを捨てる。その時彼は自分の「人生」も捨てたのだろうか。それとももっと別の「大切なもの」を手に入れるために前に歩き出すのだろうか。

自分が今「大切にしているもの」は何だろうか、人生の終末を迎える瞬間まで、「今自分が向き合っているもの」から逃げずにいることができるだろうか、と映画を観終わった後反芻しながら、映画館を後にした。

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