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Silver Wings(銀色の翼)[私の好きな20世紀の唄たち]vol.50 [20世紀の歌Ⅱ]

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Silver Wings(銀色の翼)
     written by Merle Haggard

マール・ハガードは1937年4月6日にカリフォルニアで生まれたとあるが、父親はオクラホマの出身で、'31~'39年にオクラホマ一帯で起こった「大砂嵐(Dust Bowl)」や「大恐慌」のために故郷を捨てて西に移り住んだようだ。このことは " RAMBLIN' ROUND "[20世紀の歌Ⅱ] でも少し触れた。音楽は好きだったがいわゆる不良少年で、すさんだ生活をしていたようだ。20歳のころ強盗罪でサンフランシスコの刑務所に入ったが、58年の正月に慰問に来たジョニー・キャッシュの歌を聴いて歌手を志す決意をしたと言われている。

その後模範囚となり出所してからは、ベイカーズフィールドでカントリーの歌をを作り歌い始める。彼の作る歌は労働者や死刑囚などの体験をストレートに歌ったものが多い。彼がバック・オーエンズらと作ったサウンドは後にベイカーズフィールド・サウンドと呼ばれるようになる。ポップでおしゃれなナッシュビル・サウンドとは対極をなすものだ。
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ヴェトナム反戦運動が頂点を迎える69年に、彼はそれらの流れを全否定するような歌 " Okie From Muskogee " (モスコギーからの流れ者)を作り発表する。「俺たちはヒッピーたちみたいにマリファナやLSDもやらないし、徴兵カードを焼き捨てたり、乱痴気騒ぎなんかしないさ…」という歌詞には、非常に保守的なものを感じて、歌っていいのかなと思うこともしばしばだった。今改めて見直してみると、彼はヒッピーたちの変革の行動の中に、何か地に足の付かない上滑りなものを感じていたのではないか。政治的なメッセージというよりは、オクラホマ出身の貧しい流れ者の息子として、日々のささやかな生活を大切にする、そういうところから乖離してなにが変革か、と言いたかったのかもしれない。

彼の代表曲としては、上記の歌や死刑囚とのやり取りを元にした " Sing Me Back Home "、 " Mama Tried " " Working Man Blues " など数多いが、あえて " Silver Wings " を選んだのは、マールの曲で最初に知ったものだからでもある。確かリンダ・ロンシュタットが誰かのアルバムのゲストで歌っていたのではなかったか。リンダ経由で知ったアーティストの多いことよw

Muskogee と同じ69年に別のアルバムで発表されたこの曲は、飛行機で去っていく恋人のことを歌った失恋ソングである。もう一昔前だったら列車で去っていくというところだが、この時期ライトフットの「朝の雨」やジョン・デンバーの「悲しみのジェットプレイン」など、飛行機を扱った歌が次々と出てくるのは、フォーク・カントリーミュージックの歴史の流れのひとつのエポックを感じさせるところではあるなあ。

長田弘さんが『アメリカの心の歌』の中で「(彼の歌は)ただ一人の私の歌だ。<中略>ほとんど形容詞がない。直截で、飾らない。それでいて容積が大きい」と言っているが、この歌にもそれが当てはまるように思う。最低限の感情しか吐露していないため、聞く者にそれぞれの「別れ」の物語を紡がせる、そんな歌だ。それは彼の生き方そのものでもあるのだろう。シングルカットされたわけでもないこの曲が、遠く離れた日本でも多くの人々に愛される所以だろう。今でもこの曲名で検索すると、多くの店の名やバンド名になっているのがほほえましいくらいだ。
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そんな彼が先日亡くなった。奇しくも April 6, 2016 (aged 79) 、誕生日と同じ日に。マールの歌ももっと色々聴いて自分の歌にしていこうと思っていた矢先であった。残念であるが、ドラマチックに生きてドラマチックにこの世を去っていった彼の数々の歌を、私も生きている限り歌いついでいきたいと思った。

youtube はまずマールのもの
MERLE HAGGARD-SILVER WINGS
https://www.youtube.com/watch?v=2V8zVkqZa98
リンダのもの
Linda Ronstadt - Silver Wings
https://www.youtube.com/watch?v=mSMeT_aqjBE
マールの授賞式でのクリスとミランダの歌
Silver Wings - Kris Kristofferson and Miranda Lambert - Kennedy Center Honors Merle Haggard
https://www.youtube.com/watch?v=FFzPBT77jtk&nohtml5=False

Silver Wings(銀色の翼)

銀色の翼よ、日の光を浴びて輝いている
エンジンは轟音を上げ、どこかへ飛び立とうとしている
お前をどこかへ連れ去り、俺を独りぼっちで置き去りにする
銀色の翼はゆっくりと視界から消えていく

 「俺を置いていかないでくれ」俺は泣く
 飛行機に乗らないでくれ
 けれどお前は俺のことを心から追い出して鍵をかけ
 俺をここに立ちすくんだまま置き去りにする

銀色の翼よ、日の光を浴びて輝いている
エンジンは轟音を上げ、どこかへ飛び立とうとしている
お前をどこかへ連れ去り、俺を独りぼっちで置き去りにする
銀色の翼はゆっくりと視界から消えていく


Very Best of MERLE HAGGARD


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