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小説『海辺のカフカ』雑感 [読書]

カフカとはチェコ語で「カラス」の意だとか。
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法事で帰省した時持っていって上巻を読み、帰ってから下巻を読了した。『1Q84』を読んだのも去年の夏の帰省中だったような。じっくり読むためにはネット環境の遮断が必要らしいww

春樹さんの愛読者というわけでもなかったので、読む順番もめちゃくちゃで、振り返ると『ねじまき~』『ノルウェイの森』『1Q84』と読んできたことになる。『1Q84』の感想で「二人の人物の手記が交互に出てくる構成」と書いたが、それは85年の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に端を発するようだ。順番に読んでいたら『1Q84』でもそれほど驚かなかったかもw

本作品でも15歳の主人公「僕」の手記の章と、戦争末期に疎開先で集団催眠にかかり、あちらの世界に知能などの半分を残したまま中年になっている「ナカタさん」の章が交互に語られ、別々の物語が一つに収斂するという構成をとっている。二つの物語は「入り口の石」というパラレルワールドの入り口を共有していることでつながっている(佐伯さんの物語とも)が、そのつながりは『1Q84』の青豆と天吾ほどの必然性が感じられない。2作の間には7年という期間があるので、やはり新作の方が進歩しているということなのかな。
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例によってちゃんとした分析は出来ないので、印象に残ったことをひとつ。おおまかに言うと、主人公「僕」は15歳の、聡明であるが周囲から孤立した存在として描かれている。父親から「「母と交わり父を殺し、姉とも交わる」という呪い(ギリシャ悲劇からとった?)をかけられ、自立のための家出の旅の中で、その呪いを実際に体験(あるいはメタファーとして体験)しながら大人になっていく物語なのだが、高松の私立図書館の司書大島さんの指示で、高知の山奥の森の中の小屋に暮らし、森の奥に分け入って別の世界の入り口を見つけ、入っていく場面がある。この「森」の描写がなかなか秀逸で、大したものではないがここ一年山歩きをしている体験とも重ねて興味深く読むことができた。先日観た映画「あん」のある場面とも重ねられ、面白かった。深い森のなかには、何かしら想像力をかきたてるものがあるなあ、と思ったことだよ。

この小説は、それぞれの章を無理につなげなくても、部分部分を読み味わってもいいのかなとも思われるのだが、やはり作者の体験に裏付けられたと思われる描写は精彩を放っている。

今回は図書館の場面、ロードスターやワーゲンという車の描写などにそれを感じたが、やはりもっとも思い入れが強いのは音楽だろうな。以下いくつか挙げておく。
1 大島さんが車の中で聴いているシューベルトの『ピアノソナタ第17番ニ長調』。彼の生き方・考え方とリンクする部分があるので併せて聴くのがよいと思う。
2 トラック運ちゃんの星野さんがナカタさんについて高松まで同行し、偶然入った喫茶店で聞く大公トリオによるベートーベンのピアノ協奏曲。星野さんは本作の中で最も親しみを感じる青年だが、彼がこの曲と出会うのには少々無理を感じるなあ。トリュフォーの映画『大人は判ってくれない』を観るのもそうだけど。まあ、作者の中には「必然性」があるのだろうね。
3 主人公がMDウォークマンで70年代のロックやジャズを聴くのだが、中でもロバート・ジョンソンの「クロスロード」 (クリームの演奏)は、彼が置かれた閉塞的な状況を表しているので是非聴くべきと思う。( 本ブログの「 20世紀の歌」でも紹介しているのでこちらも是非ww )
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とりとめのない感想になってしまったが、他にも、『源氏物語』や『雨月物語』(生き霊)の引用など、そこだけ読んでも興味深い記述が多いので、あまり全体で何を主張しているのか、などと考えずに「メタファー」として読めばいいのかな、というのがとりあえずの感想であろうか。ふふ。

海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)


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