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映画『生きる LIVING』@TOHOシネマズ 西宮OS [映画]

映画『生きる LIVING』
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この映画は、1952年の黒澤明の日本映画『生きる』のリメイク作品で、小説家のカズオ・イシグロが脚本を書いた作品である。黒沢作品は観たことはないのだが、60年も前の作品を今取り上げるのは、作品が現代的な意味を持っているからなのだろうとは思ったが、いぶかしさはやや残っていた。
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事前に黒沢映画の内容は少し見ていた。「市役所で市民課長を務める渡辺勘治は、かつて持っていた仕事への熱情を忘れ去り、毎日書類の山を相手に黙々と判子を押すだけの無気力な日々を送っていた。市役所内部は縄張り意識で縛られ、住民の陳情は市役所や市議会の中でたらい回しにされるなど、形式主義がはびこっていた。ある日胃癌で余命幾ばくもないことを知り、…」という展開は、リメイク版でもほぼ同じだった。
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舞台は1953年、第2次世界大戦後のロンドン。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズ(ビル・ナイ)は、自分の人生を空虚で無意味なものと感じていた。舞台がロンドンに変わっても、いわゆる「お役所仕事」は日本と変わらないなと思って観ていた。悪しき官僚主義を批判した作品でもあるという両作品だが、地域の陳情を各部署でたらいまわしにする部分は、まさに「あるある!」に満ちていて思わず笑ってしまった。
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官僚主義の批判といえば、太宰治が晩年に書いた小品『家庭の幸福』があって、作中に「家庭の幸福は諸悪の元」という言葉があって、家庭を大事にするという美徳が、官僚的エゴや保身につながる危険を指摘していた。尤も、家庭を顧みず好き放題しているように見える太宰が言うと「おまいう」と言ってしまいそうでもあったが(笑)。
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さて、医師から余命半年と宣告されたウィリアムズは、仕事を放棄し、海辺のリゾート地で酒を飲んで馬鹿騒ぎするも満たされない。そんな時、酒場でのピアニストとのやり取りの中で歌ったのが、スコットランド民謡の望郷の唄「The Rowan Tree」(ナナカマドの木)であった。ここに第一の転機があったように思われる。日本盤でこれにあたるのが、主人公が最期に歌った「ゴンドラの唄」である。ここにはカズオ・イシグロの新たな視点が込められているのだと思う。
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ウィリアムズはロンドンに戻り、かつての部下であったマーガレットと再会し、バイタリティ溢れた彼女とのやり取りの中で、余命半年の中で「生きる」ことについて考え直すのだった。そして、かつて自らお蔵入りにしていた「市民公園」を造ることに奔走するのだった…。
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人が「生きる」とはどういうことなのか、という問いかけは、全ての人間に突き付けられている命題ではあるが、この作品は60年前の日本で現代的問題であったことが、60年後から見てもやはり同時代的課題であり続けているということを我々に見せてくれたということなのかもしれない。黒沢作品も一度観てみたいと思ったことだ。
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<参考>
O' Rowan Tree
written by lady nairne

Oh, rowan tree! Oh, rowan tree ! Thou'lt aye be dear tae me
Entwined thou art wi' mony ties o’ hame and infancy
Thy leaves were aye the first o' spring, thy flow'rs the summer pride
There wasnae sic a bonny tree in a' the countryside
Oh! rowan tree !

How fair wert thou in summer time, wi' a' thy clusters white
How rich and gay thy autumn dress, wi’ berries red md bright
W e sat eneath thy spreading shade, the bairnies round thee ran
They pu’ d thy bonnie berries red and necklaces they strang
Oh! rowan tree!

On thy fair sterm were mony names, which now nae mair
I see But they’re engraven on my heart, forgot they ne’er can be
My mother! Oh! I see her still, she smil'd our sports to see
Wi’ little Jemnie on her lap, wi' Jamie at her knee!
Oh! rowan treel

Oh! there arose my father’s prayer, in holy evenings calm
How sweet was then my mother’s voice, in the Martyr’s psalm
Now a' are gane! W e meet nae mair meath the rowan tree
But hallowed thoughts around thee twine o’ hame and infancy
Oh! rowan tree!


『ゴンドラの唄』
作曲:中山 晋平 作詞:吉井 勇

いのち短し 恋せよ少女
朱き唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日の ないものを

いのち短し 恋せよ少女
いざ手をとりて 彼の舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰れも 来ぬものを

いのち短し 恋せよ少女
波に漂う 舟の様に
君が柔手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを

いのち短し 恋せよ少女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを



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