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小説『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』雑感 [読書]

『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』(著者:丸山正樹)。
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2月に『コーダあいのうた』という映画を観た。「コーダ」とは「Children of Deaf Adults(耳の聴こえない両親に育てられた子ども)」という意味だったのだが、観るまでは音楽用語のcodaなのかなと思っていた。邦題に「あいのうた」と書いてあるのも誤解を招く一因だっと思うけど。でもまあ自分の無知ももう一つの原因と思い、ネットで少し調べてみた。そこで見つけたのが、ご自身もコーダである五十嵐大さんのサイトだった。映画のレビューにも引用したがここでもリンクを貼っておく(⇒参照)。

そこで紹介されていたのが標記の小説だった。2011年が単行本の初刊であったが2015年に文庫化されている。とっつきにくいかな、と思いながら読み始めたが、推理小説的な展開に引き込まれて一気に読んでしまった。主人公の荒井尚人は仕事と結婚に失敗した中年男で、アルバイトをいくつかやりながらなんとか生活している。シングルマザーの恋人もいるにはいるが、深くは付き合えずにいる。彼は両親がろう者で兄もろう者という家庭で育ったコーダだったのだ。
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そんな彼は、生活のためにアルバイトの一つとして手話通訳士の仕事を引き受ける。そしてあるろう者の法廷通訳を引き受けるのだが、その活動の中で、10年前に彼が手話通訳士として関わった、ある事件と再び向き合うことになる。かつて警察の事務職で働いていた時、ある殺人事件の被疑者がろう者だったため、彼は取り調べの通訳を引き受けることになるのだが、一応の解決を見たにも拘らず、彼の中にはモヤモヤとしたものが残る。そして10年後再び似たような事件が起こり、否応なくその事件に巻き込まれていく…。

終盤に向かっての緻密な展開と筆致にも驚いたが、何よりも驚いたのは、作者が日本におけるろう者社会の現状について非常に詳しく語っていたことだった。彼自身がコーダなのかなと思ったが、そうではないが、ご家族が障害を持っていらっしゃって、長年その介護をされているようで、それが同じようにハンディキャップを抱えている人たちに目を向けるきっかけになったということだった。同じ手話でも、私たちがTVなどでの講演の時に見るのは、日本語と手話の語をほぼ一対一に対応させた日本語対応手話(Signed Japanese)で、それとは別にろう者同士、またはろう者と聴者の間で生まれ、広がった日本手話(Japanese Sign Language, JSL)があることなどが詳しく語られていた。この小説は、多くの人に知られていないろう者社会の現状を知ってほしいという側面も強く持っている。
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作者は小説のタイトル「デフ・ヴォイス」には三つの意味が込められていると言う。【一つは、そのまま「ろう者の声」。もう一つは「声」そのものではないですが、ろう者にとっての言語である「手話」ということ。最後の一つには、ろう者に限らず、言いたいことがあっても圧倒的な多数の前にあってその声が社会に届きにくい社会的少数者の声、という意味もこめました。】
日本にもコーダの人々が2万人以上もいるという事実を、先ず知ることから始めないといけないと思ったことだ。

外国の映画をきっかけに、このような作品に出会えたことは貴重な体験であった。続編もあるようなので、また読んでみたいと思ったことだ。


デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫)


慟哭は聴こえない: デフ・ヴォイス (創元推理文庫 M ま 3-2)


龍の耳を君に デフ・ヴォイス (創元推理文庫)


ワンダフル・ライフ


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