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映画『この世界の片隅に』@MOVIX 尼崎 [映画]

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この映画は、大ヒットした『君の名は』(こちらはまだ観ていないが)の陰でひそかにヒットし、動員数を増やしつつある映画である。観ようと思ったきっかけは、あの『あまちゃん』で大ブレークし、その後所属プロダクションとのトラブルから「のん」と改名を余儀なくされた能年玲奈が声優として主演しているということであった。そのこともあってか、この映画は当初メディアでもあまり取り上げられることがなかったらしい。SMAPの解散騒動といい、最も先進的であってよいはずのこの国の芸能界が、昔ながらの情実がらみの契約社会であることに驚かされる。
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原作はこうの史代による日本の漫画作品で、『漫画アクション』(双葉社)に2007年~ 2009年まで連載されていたようだ。この雑誌を毎号買っていたのはもう二十年も前だったかな。こんなタイプの作品が載せられていた雑誌ではなかった気がするなあ。広島に投下された原爆を描いた反戦映画ということで観たのだが、主な舞台は近隣の軍港呉市で、これまでの「ヒロシマ」作品とは少し違う視点で描かれていた。
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絵が得意な少女浦野すずは広島市江波というところで育つ。少し前に「ぶらタモリ」の広島編を見ていたので、太田川の河口の三角州だったところだな、と興味深く観ることができた。
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どこか天然なところのあるすずのキャラクターは「のん」そのものに思えて、彼女を抜擢したのは慧眼だったな、と思ったことだよ。一方で「あまちゃん」以来彼女のキャラがなかなかそこから脱し得ないことにもどかしさも感じるのだが。戦前の広島郊外の暮らしぶりは、場所は違うが自分の幼少期の記憶とも妙に重なって、切ないような感じさえした。全体にやや霞んだようなアニメの画像は思い出の中の映像のようでいて、妙にリアルな感じもする不思議な「絵」だった。
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昭和19年、すずは呉の北條周作のもとに嫁ぐ。軍港の呉は重要な軍事拠点であるため、その後たびたび空襲を受けるようになるのだが、すずにとっては、たまたま嫁いだ先が呉(の山あい)だったのであり、そこで貧しいながらも懸命に、そしてささやかな喜びをもって暮らしていただけだった。
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そんなすず達のところに爆弾は容赦なく降り注ぎ、姪っ子の命を奪い、すずの右手を奪ってしまう。
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そして8月6日、隣の広島から閃光とともに巨大なキノコ雲が立ち昇るのが見える…。
廃墟となった広島市内で、すずは夫周作に再会し、「この世界の片隅」で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、そこで出会った戦災孤児の少女を連れて呉の北條家に帰る。そこには戦災で多くのものを失ったすず達が再生していく姿が暗示されているようだった。

「この世界の片隅」には、無数の名も無き民が暮らしていて、その一人ひとりが奇跡のような出逢いをしながら暮らしを営んでいる。だからこそそれらの暮らしを奪っていった戦争の理不尽さ・悲惨さがよりいそっそう浮き彫りになっていく。この映画はそんな視点から描かれた名作だと言ってよいと思う。「のん」を起用したことや、大手の製作会社ではなく、クラウドファンディングを利用しての制作など、制作者たちの気骨が窺い知れる。もう一度一つ一つの映像をしっかり見直して味わいたいと思ったことだ。

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