SSブログ

『女が眠る時』@109シネマズHAT神戸 [映画]

『女が眠る時』( While the Women Are Sleeping)
001.jpg
『スモーク』でベルリン映画祭の「銀熊賞」を獲った香港出身のウェイン・ワン監督が、スペイン人作家の小説を日本に舞台を置き換え、世界のビートたけしが12年ぶりに出演するミステリー…、というキャッチフレーズを見て行くことにしたが、なかなか難解な映画だった。
002.jpg
一週間のバカンスで夫婦で海辺のリゾートホテルを訪れた作家が、そこのプールで初老の男と年若い少女という奇妙なカップルを見つけ、興味を抱く。最初はちょっとした好奇心だったが、だんだん二人の不思議な関係に惹きこまれ、部屋を覗いたりついには彼らの部屋に侵入してしまうようになる。ヒッチコックの『裏窓』みたいなものかと思ってみていると、だいぶ違っていて、主題はビートたけし演じる佐原の少女に対する猟奇的といってもいい性愛的な執着ぶりと、壁にぶつかって悩んでいる作家健二の、好奇心→妄想→狂気へとはまり込んでいく心理劇そのものにあった、と言っていいのかもしれない。
003.jpg005.jpg
健二は初めて書いた小説がベストセラーになるが、その後創作に行き詰まり、結婚した妻綾も作家付の編集者なので、そのことも彼を追い詰める一因となっているようで、せっかくのバカンスなのに夜の生活もうまくいかないでいる。倦怠期と言ってしまえばそれまでだが、全てが壁に突き当たった彼の状況を象徴しているように見える。そんな時に現れたのが上記の不思議なカップルだったということだ。よく見ないと、どこまでが現実でどこからが妄想・狂気の世界なのか分からなくなる。佐原が、眠っている少女美樹のうなじの産毛を剃刀で剃り、その寝姿を撮る場面(どこか谷崎潤一郎の小説を思い起こさせる)などが、すでに常軌を逸した耽美的な世界に我々を惹き込んでいくので、現実と妄想が互いにエスカレートして観る者に迫ってくる感じだ。
007.jpg
結果として、健二はこのことを題材にして新しい小説を書き上げることができ、夫婦の仲も新鮮さを取り戻していく。
008.jpg
佐原は健二を助けた芸術の女神ミューズならぬ男神的な役割を持っているといえるのかもしれない。ワン監督は映画人としてのビートたけしをたいそうリスペクトしているようだが、少女を撮るためにカメラのファインダーをじっと覗く姿などに彼へのオマージュがよく現れているように思われる。
006.jpg
試写会のインタビューでたけしさんが「最近の映画界は、売れ線を狙ったエンターテインメント性の強いものが多いのが残念、観た人たちが後でお茶でも飲みながら何時間でもデイスカッションするような映画がもっと出てきてもいいのではないか」という意味のことを語っていたが、確かにこの映画は後になって「あの場面はどういう意味だったのか」などと思い返すことの多い映画だったように思ったことだよ。

蛇足になるが、「骨のある映画人」が少なくなったのと同じようなことがTVや出版界などのメディアでも起こっているような気がする。スポンサーや時の権力の目を忖度するあまり、安直に視聴率の取れそうな番組や、売れ線狙いの作品が増えてきて、政治的な問題には口をつぐむ一方で、スキャンダルなどには声高に目くじらを立て言いつのるという傾向が強くなっている気がするのは私だけだろうか。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0