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小説『1Q84』雑感 [読書]

小説『1Q84』雑感

お盆の帰省中暇だろうと思って、文庫で出ていたBook1を買って持っていった。退職してから暇になったはずなのに、机の前に座っているとPCがあり、ネットサーフィンをしたり、ブログを書いたり、TVを見たり、音楽を聴いたり、最近はギターも弾いたり、とけっこう時間が過ぎていく。旅に出ても次に行くところを考えたり、飲み屋に行ったり、とせわしなかったりする。本当にのんびりした日々を送りたいものではある。

ところが、読み出すとはまってしまって、関西に帰ってからもBook2・3と購入して一気に読んでしまった。おかげで寝る時間がどんどん遅くなって、リハビリに苦労している。そういう意味ではベストセラーになる小説なんだな、と納得させられる。小説の進行が「天吾」「青豆」という二人の主人公の視点で書かれた章が交互に出てきて、二人の関係が少しずつ明らかになっていくという、一種ミステリーじみた構成になっているのも、次を読みたい、と思わせる要因なのだろう。優れたエンターテインメントだも言える。80年代に世間を騒がせた<オウム>などをモデルとした新興宗教も出て来、パラレルワールドも重要な舞台設定になっている。新興宗教というと高橋和巳が66年に書いた『邪宗門』が<大本教>を扱っていて、当時衝撃を受けたのを思い出す。そして高橋和巳が、その後歴史の中に埋没してしまったかのような状況にあることにも、何か不可解な思いがぬぐえない。再評価される日は来るのだろうか、村上春樹のこの小説もいつか時代の中に埋没してしまうのだろうか。それともノーベル賞(候補)作家として、その評価はゆるぎないものになるのだろうか。

多くの人がレビューを書いているので、自分なりに気になったところを一つ二つ書き留めておく。
月が二つ見えるのは「もう一つの世界」にいる証のようだが彼らに共通するもの=1Q84の世界を見れる資質のようなものがあるのだろうか。天吾も青豆も幼少時に親と決別し(もしくは捨てられ)、<孤独>と向き合って生きている。周囲と協調しながらも決してもたれあっていない。天吾は年上の彼女と、青豆は行きずりの中年男とそれぞれ濃密な情事を重ねるが決してそれに溺れてはいない。この小説は性描写が過激だとも言われているようだが、そんな感じを受けないのはこの二人のそんな感性のあり方によるのかも知れないし、作者の全て観念のフィルターを通したかのような表現のせいかもしれない。二人が小学四年の時以来互いを思いあっているという<純愛>のせいかもしれない。では牛河は?二人と全く異なるように見える彼こそが、実は幼少時から結婚・離婚を経て現在に至るまで常に<孤独>を強いられ、それと向き合わざるを得ない人生を送ってきたともいえる。そして「ふかえり」にカメラのレンズを通して射すくめられた時、「愛するべき誰か」を持つことを知ったのかもしれない。

宗教について、作者が無宗教かどうかは分からないが、完全な唯物論者ではないように思える。ふかえりの父親は「さきがけ」という新興宗教の教祖であるが、それはモデルになったものとは似て非なる形として描かれている。が、その宗教が作者の考えるユートピアのようなものを形づくるようには描かれてないように思う。そこが「邪宗門」と大きく違う点かもしれない。むしろ小説の中で引用された、ユングの「冷たくても、冷たくなくても、神はここにいる。」という言葉に作者の宗教的なものに対するシンパシーのようなものが感じられる。

一度通読しただけなので、この程度の感想にしかならないが、純愛小説としてはともかく色々な村上春樹を見ることが出来るので是非読むとよいと思う。「ねじ巻き~」を読んだとき、漱石の後期の作品に似たところがあるな、と感じたが今もそれは変わらない。

最後に作中に出てくる音楽を。登場人物が皆作者と同じ音楽的嗜好を持っているのは、仕方ないこととはいえ、ちょっと笑っちゃうが。

①ヤナーチェクの『シンフォニエッタ』 青豆と天吾の結びつき、そして1Q84の世界へ誘う曲として暗示的である。ヤナーチェクは晩年年下の人妻と恋に落ち、純愛を貫いたそうだが、小説に引用されたことと何か関係があるのだろうか。youtubeにいくつか出ている、その一つ。
https://www.youtube.com/watch?v=iuT_Czhu-2E

②『1Q84』は「バッハの平均律クラビーア曲集のフォーマットに則って、長調と短調、青豆と天吾の話を交互に書こう」として書かれた、というインタビュー記事があった。

③Louis Armstrong Plays W.C. Handy のアルバム及び Atlanta Blues (Make Me One Pallet On Your Floor) という曲。作中では天吾の年上の彼女が好きな曲として引用されていた。 Barney Bigard (clarinet)の絶妙なバックアップを絶賛していた。
https://www.youtube.com/watch?v=uPEVmBOfiC8&list=PLC3EB23552CEB511A
Make Me One Pallet On Your Floorはこちら
https://www.youtube.com/watch?v=Z38o98t4VJo
ちなみにこの曲はC.G.というブルーグラスバンドもやっている。昔演ったなww
https://www.youtube.com/watch?v=28wgk9WdJ5Y

1Q84 BOOK 1


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コメント 2

PON

村上春樹はあまり読んだ記憶が無い。
1Q84も話題になりすぎて読む気が起こらなかったが機会があれば読んでみたいと思った。
邪宗門・・・学生時代に読んだ。そして実は・・・以下省略。。
by PON (2014-08-29 18:14) 

hobo

昔図書館にいたとき購入したけど、自分では読まなかったのをやっと今になって読みました。ponさん、「そして実は」の後を是非聞きたいものですな。
by hobo (2014-08-30 02:02) 

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